令和6年1月1日施行

相続税・贈与税の税制改正
& マンション評価ガイド

国税庁パンフレットに基づく経営者向けわかりやすい解説

この改正で何が変わったのか

令和5年度税制改正により、令和6年1月1日以降の贈与・相続について4つの大きな改正が行われました。また、分譲マンションの相続税評価方法も大幅に見直されています。

経営者の皆様へ:事業承継や生前贈与の計画をされている方は、この改正の影響を必ず確認してください。特に暦年課税の加算期間延長は、贈与計画の見直しが必要になる可能性があります。

改正1 相続時精算課税に基礎控除を新設

相続時精算課税を選んでいる方に、年110万円の基礎控除が新たに設けられました。この110万円以下の贈与であれば贈与税の申告も不要になります。

改正前

基礎控除なし。少額の贈与でも贈与税の申告が必要でした。相続時には贈与額の全額が相続財産に加算されました。

改正後

年110万円まで非課税で申告不要になります。相続時にも110万円控除後の残額だけが加算されます。

改正2 災害時の土地建物の再計算

相続時精算課税で取得した土地や建物が災害で被害を受けた場合、相続税の計算で使う価額から被災価額を差し引ける特例が新設されました。

対象:令和6年1月1日以降に災害を受けた場合で、被災価額がその土地・建物の想定価額の10%以上であること。

改正3・4 暦年課税の加算期間を7年に延長

相続前の生前贈与が相続財産に加算される期間が、従来の3年から7年に延長されました。ただし、延長された4年間の贈与については総額100万円まで加算されません

重要:この改正は令和6年1月1日以降の贈与から段階的に適用されます。すぐに7年になるわけではなく、経過措置があります。

新制度 マンション評価方法の見直し

分譲マンション(居住用の区分所有財産)の相続税評価額について、市場価格との乖離が大きかった問題を是正するため、区分所有補正率による新しい評価方法が導入されました。

影響:タワーマンション等の高層階・高築年の物件は、従来より評価額が大幅に上がる可能性があります。節税対策としてのマンション購入を検討中の方は特に注意が必要です。

改正の全体像

改正項目対象税改正のポイント施行日
改正1:精算課税に基礎控除贈与税・相続税年110万円の基礎控除を新設令和6年1月1日
改正2:災害時の再計算特例相続税被災した土地建物の価額を減額可能に令和6年1月1日
改正3・4:加算期間延長相続税生前贈与の加算期間を3年→7年に令和6年1月1日(段階適用)
マンション評価見直し相続税・贈与税区分所有補正率による評価額の補正令和6年1月1日

改正1 相続時精算課税に係る基礎控除の創設

相続時精算課税を選択した受贈者(もらう側)が、特定贈与者(60歳以上の父母・祖父母)から令和6年1月1日以後に贈与を受けた財産については、暦年課税の基礎控除とは別に、贈与税の課税価格から基礎控除額110万円が控除されます。

制度のしくみ

年間の贈与額
基礎控除 110万円を差引き
特別控除 2,500万円を差引き
残額 × 20% = 贈与税
ポイント:基礎控除110万円以下の贈与であれば、贈与税の申告自体が不要になります。また、相続時にも基礎控除後の残額だけが加算されるため、実質的に毎年110万円ずつ非課税で財産を移転できます。

計算例

相続時精算課税を適用した贈与財産が3,300万円、相続財産が1,500万円の場合(法定相続人:配偶者1人、子2人)

項目金額計算過程
贈与額3,300万円-
基礎控除後の課税価格3,190万円3,300万円 − 110万円
特別控除2,500万円-
贈与税の納付税額138万円(3,190万円 − 2,500万円) × 20%
相続時の加算額3,190万円基礎控除後の残額
相続財産 + 加算額4,690万円1,500万円 + 3,190万円
相続税の基礎控除4,800万円3,000万円 + 600万円 × 3人
相続税額0円4,690万円 < 4,800万円
贈与税138万円は還付138万円還付-
参考:暦年課税の場合、同じ3,300万円の贈与で納付税額は1,180万円となり、相続税は0円でも還付されません。精算課税の方が1,042万円もお得になるケースです。

改正2 災害時の土地・建物の価額の特例

相続時精算課税で取得した土地や建物が、贈与の日からその特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に災害で一定の被害を受けた場合、贈与時の価額から被災価額を控除した残額で評価できます。

特例の計算イメージ

贈与時の価額 2,000万円
災害で被害(被災価額300万円)
相続税加算額 1,700万円
適用条件:被災価額が想定価額の10%以上であることが必要です。災害発生日から3年以内に「り災証明書」等を添付して申請し、承認を受けてください。

相続時精算課税に関するQ&A

相続時精算課税を選択するにはどのような手続が必要ですか?
贈与税の申告書の提出期間内に「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。贈与税の申告書を提出する必要がある場合は申告書に添付して提出し、申告の必要がない場合はこの届出書を単独で提出します。
贈与額が基礎控除額(110万円)以下の場合、贈与税の申告は必要ですか?
令和6年中に特定贈与者から贈与により取得した財産の価額の合計額が基礎控除額以下ですので、令和6年分の贈与税の申告は必要ありません
災害時の特例を受けるにはどのような手続が必要ですか?
災害発生日から3年を経過する日までに、災害による被害額や保険金などの事項を記載した申請書に「り災証明書」など一定の書類を添付して、所轄税務署長に提出し承認を受ける必要があります。承認後に被災価額に異動が生じた場合は、遅滞なく届出書を提出しなければなりません。
災害減免法の軽減を受けた場合、この特例は使えますか?
災害減免法により贈与税の軽減等の適用を受けようとする場合や、既に受けた場合は、この特例は適用できません。どちらか一方を選択する必要があります。

改正3・4 暦年課税による生前贈与の加算対象期間等の見直し

相続又は遺贈により財産を取得した方が、その相続開始前に被相続人から暦年課税による贈与を受けていた場合の加算期間が、改正前の3年から7年に延長されました。

重要な緩和措置:延長された4年間(相続開始前4年目〜7年目)に贈与により取得した財産については、その価額の合計額から100万円を控除した残額が相続税の課税価格に加算されます。つまり、延長分は総額100万円まで加算されません。

加算対象期間の経過措置

この改正は令和6年1月1日以後の贈与から段階的に適用されます。

贈与の時期加算対象期間
〜令和5年12月31日相続開始前3年間
贈与者の相続開始日
令和6年1月1日〜令和8年12月31日相続開始前3年間
令和9年1月1日〜令和12年12月31日令和6年1月1日〜相続開始日
令和13年1月1日〜相続開始前7年間
〜令和5年12月31日の贈与
従来通り相続開始前3年以内のみ加算
令和6年1月1日〜 贈与分から新ルール適用開始
ただし、相続開始が令和8年末までなら実質3年ルールのまま
令和9年〜令和12年 段階的に期間拡大
令和6年1月1日以降の贈与が加算対象に(3年〜7年へ段階的移行)
令和13年1月1日〜 完全に7年ルール適用
相続開始前7年以内の贈与がすべて加算対象に

具体的な計算例

夫が令和10年4月1日に亡くなり、長男と長女が相続。生前に夫から暦年課税で以下の贈与を受けていた場合:

贈与年月日①令和5年4月1日②令和6年3月10日③令和7年3月15日④令和7年5月20日⑤令和8年5月15日
長男200万円200万円100万円100万円200万円
長女200万円150万円300万円200万円200万円
結果:相続開始日が令和10年4月1日のため、加算対象期間は令和6年1月1日から。よって②〜⑤の贈与が加算対象になります。

長男の加算額の計算

3年以内の贈与以外(②③):{ (②200万円 + ③100万円) − 100万円 } = 200万円

3年以内の贈与(④⑤):④100万円 + ⑤200万円 = 300万円

合計加算額 = 500万円

長女の加算額の計算

3年以内の贈与以外(②③):{ (②150万円 + ③300万円) − 100万円 } = 350万円

3年以内の贈与(④⑤):④200万円 + ⑤200万円 = 400万円

合計加算額 = 750万円

注意:①の贈与(令和5年4月1日)は令和5年12月31日以前の贈与のため、相続開始前7年以内でも加算対象にはなりません。

暦年課税の加算期間に関するQ&A

令和10年4月1日に亡くなった場合、長男・長女の贈与はどのように加算されますか?
加算対象期間は令和6年1月1日からとなるため、②〜⑤の贈与が対象です。このうち相続開始前3年以内の贈与(④⑤)は全額が、3年超の贈与(②③)は合計額から100万円を控除した残額が加算されます。長男は500万円、長女は750万円が相続税の課税価格に加算されます。

新制度 居住用の区分所有財産(分譲マンション)の評価方法

令和6年1月1日以後に相続・遺贈又は贈与により取得した分譲マンションの価額は、新たに定められた個別通達(令和5年9月28日付)により「区分所有補正率」を用いて評価します。

評価算式(自用の場合)

価額 = 区分所有権の価額(①)+ 敷地利用権の価額(②)

① 従来の区分所有権の価額 × 区分所有補正率

② 従来の敷地利用権の価額 × 区分所有補正率

区分所有補正率の計算方法

区分所有補正率は「評価乖離率」→「評価水準」→「区分所有補正率」の3段階で計算します。

STEP 1:評価乖離率の計算

評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220

項目計算式説明
A一棟の築年数 × △0.033建築時から課税時期まで(1年未満は1年)
B総階数指数 × 0.239総階数÷33(小数点以下第4位切捨て、1超は1)
C所在階 × 0.018専有部分の所在階(地階は零階)
D敷地持分狭小度 × △1.195敷地利用権面積÷専有部分面積(小数点以下第4位切上げ)

STEP 2:評価水準の計算

評価水準(評価乖離率の逆数)= 1 ÷ 評価乖離率

STEP 3:区分所有補正率の決定

評価水準区分所有補正率影響
0.6 未満評価乖離率 × 0.6評価額が上がる
0.6 以上 1 以下補正なし(従来通り)変更なし
1 超評価乖離率評価額が下がる
注意:評価乖離率が零又は負数の場合は、区分所有権と敷地利用権の価額は評価しません(評価額を零とします)。

この制度が適用されないもの

以下に該当するマンション等は、この個別通達の対象外です。

・ 事業用のテナント物件(居住用でないもの)

・ 一棟所有の賃貸マンション(区分建物の登記がないもの)

・ 総階数が2以下の低層集合住宅

・ 専有部分一室の数が3以下で全て区分所有者等が居住するもの(二世帯住宅等)

・ たな卸商品等に該当するもの

計算例:具体的なマンション評価

事例の概要:相続開始日 令和6年7月1日、法定相続人 妻・子2人

築15年、11階建、3階、専有面積59.69㎡、敷地面積3,630.30㎡、敷地権割合6319/1150000

従来の区分所有権の価額 500万円、従来の敷地利用権の価額 1,000万円

A〜Dの計算

項目計算結果
A(築年数)15年 × △0.033△0.495
B(総階数指数)11階÷33 = 0.333 → 0.333 × 0.2390.079
C(所在階)3階 × 0.0180.054
D(敷地持分狭小度)19.95㎡÷59.69㎡ = 0.335 → 0.335 × △1.195△0.401

評価乖離率〜区分所有補正率

ステップ計算結果
評価乖離率△0.495 + 0.079 + 0.054 + △0.401 + 3.2202.457
評価水準1 ÷ 2.4570.407...(0.6未満)
区分所有補正率2.457 × 0.61.4742

最終的な評価額

項目従来の価額× 区分所有補正率新しい価額
区分所有権500万円× 1.4742737.1万円
敷地利用権1,000万円× 1.47421,474.2万円
合計1,500万円-2,211.3万円
結果:従来の1,500万円から約2,211万円に評価額が上昇しました(約1.47倍)。タワーマンション等で評価水準が低い物件ほど、補正による影響が大きくなります。

マンション評価 自動計算ツール

お持ちのマンション情報を入力すると、区分所有補正率と新しい評価額を自動計算します。

計算結果

相続時精算課税 贈与税シミュレーション

相続時精算課税を選択した場合の贈与税額を計算します。

計算結果